NFTと著作権の基本的な関係性:クリエイターが知るべき権利と留意点
NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)は、デジタル作品の新しい価値証明の形として注目を集めています。しかし、NFTと著作権の関係性について、多くのクリエイターが疑問や不安を抱えていることと存じます。
この解説では、NFTが著作権にどのような影響を与えるのか、クリエイターが作品をNFT化する際にどのような権利を保有し、またどのような点に留意すべきなのかを、基礎から分かりやすくご説明いたします。
NFTと著作権の基本的な違い
まず、NFTと著作権は根本的に異なる概念であることを理解することが重要です。
著作権とは
著作権とは、小説、音楽、絵画、プログラムなどの「著作物」を創作した者(著作者)に、法律に基づいて自動的に与えられる権利です。著作者は、作品の複製、公演、放送、展示、公衆送信、譲渡など、様々な方法で作品を利用する権利を専有します。これは、著作物を保護し、著作者の創作活動を奨励することを目的としています。
著作権は、作品が創作された時点で発生し、原則として著作者の死後70年まで存続します。著作権は、財産権の一部であり、他人に譲渡したり、利用を許諾したりすることも可能です。
NFTが証明するもの
一方、NFTはブロックチェーン上に記録されるデジタルデータの一種です。NFTは、特定のデジタルデータ(画像、動画、音声など)が「唯一無二のものであること」を証明するトークンであり、その「所有者」を明確に記録する役割を果たします。
NFTの購入者は、そのNFTが紐付けられたデジタルデータの「所有権」を得ることになります。これは、あたかも物理的な絵画の所有権を得ることに似ていますが、そのデジタルデータに対する著作権を直接取得するわけではありません。
NFTは、デジタル作品の真正性や希少性を証明する技術であり、作品そのものの著作権とは別の概念であることをご認識ください。
NFTクリエイターが保有する権利
デジタル作品をNFTとして発行(ミント)した場合でも、その作品の著作権は、原則としてクリエイターであるあなた自身に帰属し続けます。NFTを発行したからといって、自動的に著作権が譲渡されることはありません。
クリエイターは、著作権者として以下の権利を引き続き保有します。
- 複製権: 作品を複製する権利。
- 公衆送信権: インターネットを通じて作品を配信する権利。
- 展示権: 作品を公に展示する権利。
- 二次的著作物作成権: 作品を改変して新たな著作物(二次的著作物)を創作する権利。
これらの権利は、NFTの販売契約や利用規約において別途定めがない限り、クリエイターのものです。そのため、NFTの購入者が、あなたの作品を無断で複製、改変、商業利用することは原則として認められません。
NFTの二次流通時にクリエイターに支払われる「ロイヤリティ(二次流通手数料)」は、ブロックチェーンのスマートコントラクトによって自動的に実行される仕組みであり、著作権法上の権利に基づくものではなく、売買契約の中で設定される条件であるとご理解ください。
NFT購入者が得られる権利と制限
NFTの購入者が取得するのは、NFTが紐付けられた特定のデジタルデータに関する「所有権」が主です。これにより、購入者はそのNFTをコレクションとして保有したり、デジタルウォレット内で表示したり、あるいは別のNFTマーケットプレイスで再販売したりする権利を得ます。
しかし、NFTの購入者が、そのデジタル作品の著作権を自動的に取得することはありません。したがって、購入者は原則として以下の行為を行うことはできません。
- 作品の複製: 無断で作品をコピーしたり、印刷したりすること。
- 作品の改変: 作品に修正を加えたり、加工したりすること。
- 商業利用: 作品を使って商品を作成・販売したり、広告に利用したりすること。
- 公衆送信: 作品をWebサイトやSNSで公開したり、不特定多数に配信したりすること(コレクションとして自分のウォレットやプロフィールで表示する範囲を超える場合)。
これらの行為を行うためには、NFTの販売時にクリエイターから別途「ライセンス(利用許諾)」を得る必要があります。NFTの取引においては、通常、販売プラットフォームの利用規約や、NFTのスマートコントラクト内に、購入者に付与される権利(ライセンス)に関する条項が定められています。
購入者は、これらのライセンス条項を必ず確認し、自身の利用が許諾された範囲内であるかを判断する必要があります。ライセンス条項がない場合や不明確な場合は、限定的な「個人的なコレクションおよび表示」の権利のみと解釈されることが多いでしょう。
クリエイターがNFTを発行する際の留意点
ご自身の作品をNFTとして発行するクリエイターは、著作権に関するトラブルを避けるために、以下の点に特に留意する必要があります。
1. 出品マーケットプレイスの利用規約確認
NFTマーケットプレイスは、それぞれ独自の利用規約を設けています。この規約には、作品の出品条件、著作権の取り扱い、購入者へのライセンス付与に関するデフォルトのルールなどが明記されている場合があります。出品前に必ず内容を確認し、ご自身の意図と合致するかどうかを確認してください。
2. ライセンス条件の明確化
購入者にどのような権利(ライセンス)を付与するのかを、NFTの販売情報や作品説明に明確に記載することが推奨されます。例えば、「個人的なコレクション目的のみ」「非商業的な利用のみ許可」「商用利用には別途ライセンス契約が必要」など、具体的に記述することで、購入者との認識の齟齬を防ぐことができます。
スマートコントラクトにこれらの条件を組み込むことも可能ですが、初心者にとっては難しい場合もあります。まずは、作品説明欄で明確に提示することから始めましょう。
3. 他者の著作物の無断NFT化の回避
ご自身に著作権がない作品や、著作権者の許諾を得ていない作品をNFTとして発行することは、著作権侵害にあたる可能性があります。著作権侵害は法的な責任を伴う行為であり、マーケットプレイスからの出品削除やアカウント停止、損害賠償請求などにつながるリスクがあります。必ずご自身が著作権を持つ作品、または適切な許諾を得た作品のみをNFT化してください。
4. 不正なNFT化への対応
もしあなたの作品が、無断で第三者によってNFT化されてしまった場合、それは著作権侵害にあたります。このような事態が発生した際は、以下の対応を検討してください。
- マーケットプレイスへの報告: 多くのNFTマーケットプレイスには、著作権侵害報告のための機能や窓口が用意されています。証拠を添えて報告することで、不正なNFTの削除を依頼できます。
- 法的措置の検討: 悪質な著作権侵害に対しては、弁護士に相談し、法的な措置を検討することも選択肢の一つです。
まとめ
NFTはデジタル作品に新たな価値と流通をもたらす技術ですが、著作権とは別の概念として理解することが極めて重要です。クリエイターの皆様は、ご自身の作品の著作権を引き続き保持しつつ、NFTの購入者に対してどのような権利を付与するのかを明確にすることが求められます。
NFTを安心・安全に活用するために、常にマーケットプレイスの規約を確認し、ライセンス条件を明確に提示するよう心がけてください。そして、他者の著作権を尊重し、ご自身の権利も適切に保護することが、健全なNFT市場の発展につながります。